『源氏物語』の植物文様



紫式部の「源氏物語」はいうまでもなく平安女流文学の最高傑作とされている。
女性の筆になるだけあって、さまざまな植物が描かれているが、五十四帖のタイトルにも植物やそれに関連のあるものが多い。

試みに挙げてみると、まず、桐壺から始まって、帚木(ははきざ)・夕顔・末摘花(すえつむはな)・紅葉賀・花宴・葵・賢木(さかき)・花散里(はなちるさと)・蓬生(よもぎう)・松風・菫(すみれ)・藤袴(ふじはかま)・真木柱(まきばしら)・梅枝(うめがえ)・藤裏葉・若菜・柏木・紅梅・竹河・椎本(しいがもと)・早蕨(さわらび)・宿木(やどりぎ)まで二十三項目に及んでいる。

以上のタイトルを含め、文中に出てくる植物の数は九十七種あり、単に花、若草、若木などといった具体的な植物名か特定出来ないものを除いても九十種に及んでいる。
そのうち家紋化されているものは四十七種ある。 
植物紋は、八十八種あるから、その過半数が家紋になっているわけだ。

物語の中に「興ある紋つきて、しるき上着ばかりぞ(末摘花)とか「下襲の色、うへの袴の紋(葵)」など、紋についての記述がある。

このほかにも「浮紋(葵・若菜)」や「唐小紋(横笛)」などがり、多くは綾に織りなしてある紋章だ。

しかし、これは家紋ではなかった。
紫式部の生きた時代はまだ家紋は存在しなかったのだ。

家紋が起ったのは、およそ二百年後の平安末期のことである。
物語中の草花で多く出てくるものの順位は松・桜・梅・藤・紅葉・竹・橘・山吹・撫子・蓮となっている。

平安の人々の植物の好みが反映しているようだか、じつは後世に作られた家紋の使用度の高いのもが大半を占めている。

むかしも今も、人の植物への好みはかわらないということだろう。

家紋ー知れば知るほどーー(監修:丹羽基二氏)の中のコラムです
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